iPad 発売開始と同時に、電子書籍業界が盛り上がってきました。端末の発表が立て続けに行われましたし、出版業界大手による組織も雨後のたけのこのようにできました。
いつかはなるであろう電子書籍社会を想像してみようと思います。私は本好きなのと書店アルバイトの経験がある以外は、業界に詳しいわけでもない1素人です。内容の正当性については保証できませんのでご承知ください。
電子書籍が普及することによって起こるパラダイムシフト
書籍に関わる業界は、大きく3つに分けることが出来ます。書籍のコンテンツを作る業界と、書籍という商品を製造する業界と、出来上がった商品を取り扱う業界です。
- コンテンツを作る業界
- 筆者・ライター
- イラストレーター
- デザイナー
- 出版社
- 製造する業界
- 製紙
- 製本
- 印刷
- 取り扱い
- 取次ぎ
- 輸送
- 書店(新本)
- 書店(古書)
この中でもっとも影響が大きいのは、製造を行う業界です。今まであった注文がゼロになるのですから、次々に倒産していくことでしょう。デジタルデータを扱っているところは出力を紙からデータに変更することで生き残るかもしれませんが、小さなところは耐えられない気がします。
次に影響が大きいのは商品として取り扱う業界です。物理的な商品を扱わなくなるので、輸送費や広い倉庫や店舗が不要になります。その代わり、電子化に対応できない小さなところは倒産していくでしょう。新古書を扱う店舗は、新たな商品が流通しなくなるため倒産を避けられません。輸送業界は受注がなくなります。
もっとも影響が少ないのがコンテンツを作る業界です。商品としての形態が変わるだけなので、基本的には現状と同じと考えられます。最終的な出力がデジタルデータになるので、「入稿もデータで」となるかもしれません。現在アナログデータで入稿している人は、出版社でデジタル変換をすることを余儀なくされます。
以下、いくつかの業界について細かく書いてみます。
流通
紙の束からデジタルデータに置き換わるので、出版社・印刷所・取り次ぎ・書店間の輸送がなくなります。現在は前日もしくは当日の朝くらいを目安に書店に届くようにしていましたが、すべて当日の朝に届いていると言う形になるかもしれません。
これによって、運送業界はかなりの打撃を受けることになります。しばらくは端末の輸送が増加しますが、ある程度まで行き渡ってしまえば下降に転じます。壊れなければ何度も使うものなので、書籍と同じ量の受注にはなりえません。
出版社
すべての書籍が電子化されるまでは、紙とデジタル両方を出版する必要があります。体力のない小さな出版社は、角川書店のような大手に吸収されていくことでしょう。グループ内でのメディア展開も多い角川書店は、電子書籍でも大きな力を持ち続けるような気がします。
100%電子化されたころには、逆に小さな出版社が多く生まれるかもしれません。
取り次ぎ
取り次ぎは、出版社と書店の仲立ちをしています。日販やトーハンが大手として知られています。現在は書籍そのものを取り扱っていますが、完全な電子書籍社会になった場合は、販売のためのライセンスを割り振るようになるかもしれません。
在庫数にはどうしても上限ができてしまうため、売れる可能性の高いところに優先的に割り振られるのが現状ですが、電子化された書籍は理論上在庫数を無制限にすることが出来ますので、小さな書店にも同じように割り振ることが出来るようになるでしょう。
書店
大量の書籍を陳列する必要があるために店舗面積が必要になりがちですが、電子化によりこの問題は解決します。販売手続きを行う端末があれば済んでしまいます。最終的には、いわゆるリアル店舗はなくなり、すべてオンライン店舗に置き換わるのではないでしょうか。
副次的な影響として、書籍の詰まったダンボールを運ぶことによる腰痛などの職業病は消え、万引きされることはなくなります。
まとめ
最終的には、出版社がコンテンツを依頼し、データを複数の電子書籍データに変換する企業に依頼し、出来上がったデータとライセンスを取り次ぎに配布。書店は取次ぎの営業代理店のような形になるかもしれません。
また、そこまでの過程では失業者があふれかえることでしょう。流通業界と製造業界は書籍業界からの注文を受けることがなくなり、書籍に頼ったままのところは倒産してしまいます。
業界の統合が進み、出版から製本(書籍データの作成)までを行う企業が現れ、取り次ぎが販売も行うかもしれません。すでに日販は本やタウンを、トーハンはe-honを運営しています。
個人的にはこの予測が当たってほしい気もしますが、打撃を受ける業界があるので外れてほしいという気持ちもあります。少なくとも電子化を避けることは出来ないと考えていますので、業界団体がうまくやってくれることを期待します。